コラム

子どもの何を伸ばすの?音の鳴るおもちゃ

2021.07.07 / 最終更新日:2021.07.27

子どもにとっての遊びの役割

子どものおもちゃを選ぶときには、本人の好きなものを選んでいくことも大切ですが、もう一つ、大切にしたい視点があります。
どんなところを伸ばすことができるおもちゃなのか?という視点で、大人がおもちゃを選んであげることです。

子どもにとっての遊びは、楽しい経験だけにとどまらず、成長発達において非常に重要な役割があります。
それは、「感覚機能」を発達させること。一般的に知られているのは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚だと思いますが、実はそれだけではありません。

実は、乳幼児期に育てられる重要な考えとして、「感覚統合」というものがあります。
感覚統合の考えは、近年、特別支援教育や、発達障害のお子さんなどの教育に関わる分野で一般的にも知られるようになってきました。しかしまだまだ認知度が低いと思われますので、音のなるおもちゃについての解説の前に、感覚統合についての説明を簡単にしていきたいと思います。

感覚機能の発達について

感覚統合とは?

私達人間の感覚には、一般的に知られている、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感の他に「固有受容覚」と「前庭覚」という感覚があります。
これらは、生活をしていく上で、無意識に身体をコントロールするために非常に重要な役割を果たします。十分に発達していくことで、子どもは自らのボディイメージが持てるようになったり、情緒が安定したり、バランスを保ったり、姿勢保持など生活に必要なことが一つずつできるようになっていきます。

感覚統合が十分でないと何が起こるの?

感覚統合には段階があり、発達していく順番も個人差があります。これをやればクリア!というようなチェックリストのようなものがあるわけでもなく、成長とともに、感覚統合のでこぼこが目立ってくることがある、くらいに考えていただくのが良いかもしれません。

感覚統合が不十分な場合、その子にとって不足している感覚を、無意識に自分の中に補充していくような、大人の目から見ると不自然な「感覚刺激行動」を子どもがとったりすることがあります。

例えば、触覚の発達が十分でない場合に、でこぼこしていたりザラザラしたりするものを好んで触ったり、手をぎゅっと握ってもらうことを必要以上に求めたりします。
これらの行動は、「感覚刺激行動」というもので、子ども自身が意識していなくても、不足している感覚が補充されることで、子どもは「気持ちいい」と感じるからです。

子育てをしていく上で、発達障害などを心配される方も多くいらっしゃると思いますが、感覚刺激行動があるから発達障害、などということはありません。
どんな人にも多かれ少なかれ、自分にとって気持ちの良い、快適な刺激を求めることは当たり前のことで、それが得意不得意につながっていったり、将来的に好きなことや、職業につながっていくこともたくさんあります。
今後ご紹介していく知育玩具は、その子どもの感覚機能の発達を促したり、脳の発達を促したりしていく役割があります。

感覚過敏と、感覚鈍麻

感覚の受け止め方は、人によってばらつきがあり、感覚の過敏さや鈍麻(鈍感さ)は個人差があるものですが、これが日常生活に支障をきたしてしまうレベルになってしまうと、感覚過敏や感覚鈍麻と言われ、支援を受けることが必要な場合もあります。

感覚過敏や感覚鈍麻という考え方は、発達障害の中でも、特に自閉スペクトラム症のある方々に多くはありますが、これがあるからといって発達障害というわけではありません。また、これが無いからと言って発達障害でないと考えるともできないものです。

発達障害や自閉傾向も同じく、人によってでこぼこがあり、それが日常生活を送る上で支障があるか、他者の支援を受けることでその人の生活が円滑になるかどうかが、重要な観点と考えます。

聴覚の発達と、音の鳴るおもちゃの関係

今回から連続して、知育玩具が伸ばす子どもの力についての解説をしていきます。
ここでいう「子どもの力」とは、すなわち、子どものどんな感覚が育っていくか、どのように感覚統合していくか、ということにつながります。

音のなるおもちゃイコール聴覚の発達だけではない

今回ご紹介するのは、音のなるおもちゃについてです。
最初に申し上げておきたいこととして、どのおもちゃにも共通しますが、一つのおもちゃが育てるのは一つの感覚ではありません。
カラフルな色は視覚刺激になりますし、木のザラザラや、ツルツルのプラスチックは触覚も発達させます。パズルのようにはめると音がなる仕組みのおもちゃは、空間把握能力など、脳の機能も発達させます。
その上で、音が鳴るおもちゃが得意とする聴覚の発達に注目して、この記事の後半ではお伝えしていきたいと思います。

聴覚の発達

人間の感覚の中でも、聴覚の発達は感覚の中でも早いと言われています。
赤ちゃんが、お腹の中にいる時から音を聴いていて、言葉のリズムや音程などの聞き分けができることがわかっており、話しかけたり、音楽を聞かせたりしてきた人も多いことでしょう。

実は、生後半年くらいまでの赤ちゃんは、英語のRやLを聴き分けることができると言われています。
しかしその能力は7ヶ月くらいから失われていき、言葉を話し出す頃にはほとんどの場合消失します。
同時にこの頃から、様々な音を聞き分けて識別し、音がする方向へ顔を向けたりするようになっていきます。
この時期に様々な音の出るおもちゃで聴覚刺激を入れてあげることで、聴覚の発達が促進されます。

聴覚過敏

聴覚過敏の症状や特徴としては、大きな音、特に突然の音が苦手、時計やエアコンなどの、一般的には気にならないような小さな生活音も気になってしまって、目の前のことに集中することができない、などがあります。
同じ音量でも、特定の音だけが苦手な場合もあり、人によって様々です。

例えば、人の多いところや大きな音量のライブやフェス会場などで、ヘッドフォンの様な「イヤーマフ」をしている子どもを見かけることがあるかもしれません。
イヤーマフの役割には、その子の聴覚を守るという働きもありますが、大きな役割は聴覚過敏の方が、耳に入る音を少なくすることで、その子が目の前のすべきことに集中できたり、不快な刺激でパニックになったりすることを防いで、日常生活を落ち着いてその子らしく過ごすことができるようになるためです。
重要な音を聞き逃してしまう、というデメリットもあるため、使う場面や状況を考慮していく必要があります。

苦手な音に近づかないことが原則ではありますが、保育園や学校などの集団生活を送る上では避けることが不可能なこともたくさんあります。
そういう場合は、事前に「スピーカーから大きな音がなるよ」などと事前に予告しておいたり、小さな音から慣れていき、次第に周囲のみんなと同じ音量で聞けるようになる、という段階的な対応が大切になります。
イヤーマフは、一生使用していくわけでもなく、成長とともに使用頻度が自然に減っていったり、必要なくなっていったりします。反対に、イヤーマフをすることで心が安定し、落ち着いて過ごすことができる人もおり、個人によって異なっていくものです。

音がなるおもちゃで、様々な音がある環境を当たり前に

聴覚が発達していく時期に、様々な音を聞いて遊んでいくことは、まず第一に「音がある環境に慣れることができる」という大きな効果があります。
ずっと静かな環境で育った子どもは、なかなか音のある環境に慣れることが難しく、成長してからも目の前の会話に集中することが難しくなったり、音があること自体が「不快」と感じてしまうことがあります。

昔は大家族の中で生活していると、音がある環境が当たり前だったりしたものですが、現代では核家族化も進み、静かな環境で育つお子さんも多いです。
意識的に音がなるおもちゃを取り入れることで、静かな環境の中でも聴覚の発達を促し、様々な音がある環境が「普通のこと」として捉えることができるようになってきます。
そしてそれが、集団生活をスタートするために必要な大切なステップでもあります。

また、生活音がする中で、自分が何かを動かしたり、触ることで音がなったりするおもちゃで遊んでいると、「周囲でなっている音」と、「自分の働きかけによっておもちゃから発生している音」を聞き分けることもできるようになってきます。
実は様々な音がする中で、特定の人の声を聞き分けたり、特定の音だけに集中することは、聴覚が十分に発達していないと非常に難しいことなのです。

次からは、およその月齢に合わせたおもちゃと、伸びていく力、感覚統合として期待される内容について述べていきます。

音のなるおもちゃと伸びていく力

0ヶ月~ ミュージカルモビール

この時期の赤ちゃんは、自分の手を眺めたり、寝ていることがほとんどで、強い音の刺激は適していません。オルゴール音などの優しい音の刺激を少しずつ取り入れていくことで、聴覚が発達していきます。なお、ミュージカルモビールなどで、カラフルな色の刺激を入れたり、回転するようなものだと、色や回転の視覚刺激が加わります。

3ヶ月~ 異素材が入っていて音がなるような布絵本など

首が座り、寝返りをうつようになってくると、欲しい物に手を伸ばしたり、握ったりすることができるようになります。この時期には、中に音がなるような素材が入っている布絵本などがおすすめです。
ぎゅっと握ることで、握った強さに応じた音がなったり、カシャカシャ、パリパリというような、これまで接してこなかった音を自分で鳴らすことの楽しさも覚えていく時期です。

また、握ったり、かじったりすることで音がなったりするおもちゃでは、どのくらいいの強さで触るとどんな変化があるかを楽しみながら覚えていく時期でもあり、触覚の感覚統合も進みます。

この時期には、これまで身の回りに鳴っていた音と、聞いたことがない音を聞き分けるようにもなり、親御さんの問いかけに反応したり、嬉しそうな顔をしたりと、コミュニケーションが取れるようになる時期でもあります。

6ヶ月~ にぎやかな音が出るおもちゃ

お座りができるようになり、両手を使ったり、視界が広がって、積む、転がすなどの目や手を使った遊びを楽しむことができるようになります。
この時期には、大人の言葉を少しずつ理解し始め、ジェスチャーをしたり、アーウーなどの喃語で自己主張をするようにもなります。

この時期に楽しく遊べる玩具として、楽器や乗り物のおもちゃなど、ボタンを押したり動かすことで賑やかな音が出るおもちゃがあります。
大人から見ると、一見騒がしいおもちゃに子どもがさらされているように感じて、不安に思う親御さんもいるかもしれません。
しかしこの時期に、騒がしい音を経験したり、十分に聴覚器に刺激を入れておくと、様々な音がする環境にいても音を聴き分けたり、賑やかな音の中にいても大丈夫なようになります。

自分が発する音を耳で聞いたり、自分以外の人の発する言葉を聞き分けて、自分の口から発してみて習得していくことをする時期ですので、聴覚が非常に発達します。
様々な音がなるにぎやかなおもちゃで遊ぶことで、音の聞き分けがよりできるようになったり、音のリズムや音程を楽しんだり、聞いた音楽を自分でも歌ってみたりするようになります。

また、このようなおもちゃは、何かをはめたり、ボタンを押したりという手を使った作業が必要なものも多く、手先の触覚の発達にも効果的です。
3ヶ月頃で紹介した布絵本も、この時期にもまだまだ使うことができ、おでかけの時に持参している方も多いのではないでしょうか。

10ヶ月~ 自分で音楽を作って楽しむことができるおもちゃ

1人歩きが安定してくる頃で、大人の行動に興味と持って、日常の道具を使ってまねをするようになります。
うまくできていることを褒めたり、本人が面白いと思った子を繰り返し行うようになります。

この時期は、お子さんが初めて出会う楽器などを楽しむことができるようになる時期です。
聞く力を養う時期だからこそ、素材にこだわって良い音のものを選ぶこともできます。
ものによっては、1歳未満のお子様用の楽器でも、きちんと専門家に寄って調律されているおもちゃの楽器もあります。
また、一オクターブ用のシロフォンなどでは、子どもがどの音を叩いても、自然に楽しく素敵な音の並びを作ることができて、聴覚の発達だけではなく想像力も育てていくことができます。

また、良いメロディを作ることができたときなどに大人から褒めてもらったりすることで、情操面も成長させ、自己肯定感も高めていくことができます。

1~3歳頃 一緒に遊ぶ楽しみを知る時期

お友達と遊び始める頃には、言葉や運動能力の発達がめざましく、やりたいと思ったことに行動が伴うことが多くなってきます。
保育園などに通い始めることも多く、自分以外の子どもに出会うこともあり、周囲に対する関心を持ち始める時期でもあります。

繋げて遊ぶことができる電車のおもちゃなどでは、電車ごとの音の違いを楽しんだり、日常生活の中に実際の電車を見る機会が多いお子さんは、実物と聴き比べ、見比べながら楽しみ、聴覚や視覚を発達させていくことができます。

レジスターのおもちゃなどは、大きなボタンが押しやすく、ボタンを押すとチーン!という音でトレイが開いたり、カードを通したりすることができるものもあります。
大人の生活を真似することを楽しいと思い始める時期から、計算機を使うことが楽しくなるような小学校の低学年頃まで、性別関係なく長く遊べる玩具でもあります。
また、お金のやり取りなど、対人関係をツールを使いながら学ぶことができたり、割引など自分なりの工夫をして楽しく人と遊ぶことを覚えていく時期です。

まとめ

初回の記事では、子どもの感覚の発達の全体像を解説した上で、特に発達の早い聴覚を育てることができる「音がなるおもちゃ」に着目してみました。
上記の通り、一つのおもちゃで様々な感覚統合を進めていくことができたり、聴覚や触覚など選ぶおもちゃによって同時に複数の感覚の発達を進めていくことができます。
また、感覚だけではなく、対人関係や、空間把握能力、工夫をして遊ぶ想像力の発達などもそれぞれのおもちゃにより期待できる成長が違ってくるのが、知育玩具を選択する際の面白さでもあります。

ぜひ、お子様の好みに合うおもちゃで、楽しみながら自然に感覚の発達を促していけたらと思います。
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